暖房ー解りやすい熱の物理学

これから冬になります。エネルギー価格が高騰する中、熱を良く理解しておきましょう。部屋を上手に暖める方法、コスパの良い暖房、さらには自宅を新築するとき、これから何を気をつけないといけないか、これらすべてに熱の正しい理解が必要です。熱はエネルギーの一形態です。正しく理解するには、物理の勉強をしないといけません。なに、物理といっても身構える必要はありません。じっくり考えれば、基本は誰にでも解るはずです。

簡単な模型を造る

 子供は自動車や電車の模型を楽しみます。そのようにして本物の自動車や電車に親しみを感じます。ここでも実際の部屋を考える前に、簡単な模型を考えて置きましょう。模型を考えて理解を深めるのは物理の常套手段です。
 簡単のために今貴方は一部屋だけからなる住宅の中にいるとします。調整のきかない、つまり出力が固定された暖房装置を一つだけ持っています。以上が簡単化、つまり模型です。
 夏から秋に季節が変わります。冷房に頼っていた部屋も、徐々に冷房依存から抜け出します。そして時々最低気温が10℃を切るようになりました。そろそろ暖房の出番です。衣替えもやんなくちゃ。

秋が深まります

 夜部屋が寒くなりはじめました。暖房をつけなくちゃ。貴方はたった一台しかない、出力調整も出来ない暖房装置をつけます。それによって部屋は時間を追う毎に少しずつ暖かくなります。室温が段々上がってきます。少し暑さを感じるくらいです。そこで貴方は暖房装置を切ります。すると暑さを感じるくらいの部屋が、少しずつ暑さは薄れ、快適になってきます。その状態がしばらく続いた後、今度は少しずつ寒く感じるようになりました。そこで貴方はまた暖房装置を使います。そうすればまた同じ事の繰り返しになります。
 毎晩そうやって過ごしていると、秋も深まり初雪も降りました。いよいよ本格的な冬です。暖房が絶対に必要な季節となりました。貴方は一台持っている同じ暖房装置を使って冬を乗り切ろうと考えます。

冬将軍の到来です

 寒さが本格的になってきました。貴方は気が付くでしょう。暖房をつける時間が段々長くなってきていると。暖房を入れて切るまでの時間が長くなったのです。そしてさらには、暖房を切ってからの部屋の冷え方が速く、すぐまた暖房を入れないといけなくなったのです。
 そうこうするうちに貴方はある木曜日の晩、深刻な事態に陥ります。明日仕事もあるのでゆっくり休もうと考えて、早めに暖房をつけました。しかし困ったことには、いつまで経っても部屋が暖かくなったと感じられないのです。部屋に置いてある温度計は17℃を指しています。1時間後また温度計を見ます。暖房をつけているのに、温度計は16.5℃になっていました。暖房をつけているのに、逆に温度が下がってきたのです。
 しょうが無いなと思いながら、貴方はそれでも布団を余計に着込んで、暖かくして寝ることにしました。
 次の日は金曜日です。友人が三人遊びに来て、貴方を含めて四人で麻雀をする事になっています。貴方は暖房が効かないかも知れないよと友人に断るのですが、そのときは麻雀をやめて早く帰るさと、皆も笑いながら言うので、予定通りの時間に集まって四人の麻雀が始まりました。天気予報ではその夜の冷え込みは、ほぼ昨晩と同じだと言っています。少し早めの解散になるだろうなと思いながら、貴方は暖房のスイッチを入れます。
 麻雀が始まりました。皆さん少しお酒を飲みながらの麻雀です。皆が興奮してきて時間が経つのも忘れます。ふと客の一人が言いました。「おい、ちょっと暖房が効きすぎているのじゃないか? 部屋が暑いよ。」え、そういえば少し暑さを感じるようです。

熱エネルギーの流れを理解しよう

 上の文は簡単化された実験と思って下さい。実際に行った実験ではなく、簡単化された模型を考え、そこで起きる現象を理解するために、理論を使った実験です。思考実験と言います。思考実験は正しい理論を導くため、また正しい理論を皆に解って貰うため、物理学者がよく使う手です。
 上に述べた思考実験は、まず皆様になるほどあり得ることだと考えて頂かないと意味を持ちません。「簡単な模型を造る」とある見出しの下からの文をもう一度読み返し、なるほどあり得るなとなっとくして頂ければ幸いです。そしてそれは何故だろうと考え始めてくれたら、貴方の物理学センスはグーです。
 では上の思考実験の背後にある熱の理論をお話ししましょう。

暖房装置はスイッチが入れば、常時一定の熱エネルギーの流れを造り出す

 暖房装置とは何か? 熱エネルギーの流れを作り出す装置です。流れ出た熱エネルギーは、部屋の温度を上げます。これはちょうどガスコンロの上のやかんの水温が、徐々に上昇するのと同じ事です。どのような物体でも、熱エネルギーが流入し、結果内部の熱エネルギーが増えれば、温度が上がります。もしその物体に熱エネルギーが流入するだけで放出されることがないならば、その物体の温度は時間に比例して上昇します。
 上で考えた部屋も、もし外部に熱エネルギーを放出することがなければ、どんどん温度が増えていくでしょう。しかしです。

孤立した物体の温度が、外部の温度と異なれば、熱エネルギーの流れが温度の高いほうから低い方へ発生する。またその流れの強さは、温度差に比例する

 上で考えた部屋は、孤立した物体に当たります。
 暖房装置が働くと、装置は熱エネルギーの流れを造ります。その流れは部屋の中に流れ込み、室温を上げます。その結果、部屋の外部と内部には温度差が生じ、上に述べたことから、部屋の中から外へと熱エネルギーの流れが発生します。この流れの大きさは、温度差が大きくなるに従って大きくなります。
 どのような事が起こるのか考えて見ましょう。これを理解することが肝要です。
 暖房装置をつけたとき、室温はほぼ外気温に等しいとしましょう。このときエネルギーの流れは暖房器具から部屋の中へ起きるだけです。
 段々室温が上昇します。温度差が出てきます。温度差は室内から外部への熱エネルギーの流れを作り出します。一方暖房装置からの熱エネルギーの流れは一定なので、結果的に室内で増加する熱エネルギーの総量は徐々に減少します。せっかく発生した熱エネルギーの流れが、外部へ漏れて行くからです。そしてその外部へ流れる量は、温度差が大きくなるにつれ大きくなってくるのです。
 しかし室外の温度がそれほど高くなく、快適な室温との温度差があまり大きくない場合、暖房装置の出力は充分その室温に達成できます。そうするとそれ以上温度が上がらないように暖房装置を切ることになります。そうすると徐々に温度が下がりますから、暖房をまた入れます。初日で起こったことはこういう流れでした。ちなみに現在の暖房装置はほとんど自動で切ったりまた入れたりします。それが暖房器具の温度調整です。
 徐々に室外の温度が下がります。そうすると調整温度に達するまでの時間も増え、また室外に流出する熱エネルギーの量も増えますから、暖房を切った後の冷え込みが速くなります。これも思考実験で述べたとおりです。
 もっと外部温度が下がると、部屋から流れ出す熱エネルギーの量が増え、暖房装置から流れ出る熱エネルギーの量と等しくなる現象が起こります。この状態になれば、温度差はもはや変化しなくなります。外気温がもし一定なら、室温もそれに伴って一定の温度差で変化しません。もし外気温が下がれば、それに伴って室温も下がり、暖房器具から放出される熱エネルギーの流れが、そのまま同じ大きさの熱エネルギーの流れとなって、部屋から外部へ出ていくのです。木曜日の晩、観測された事態がこのように説明されます。
 こういう具合に、同じ暖房器具を点けていても、部屋の温度が最早増加しない状態になるのです。
 ついでに金曜の夜起こった現象を説明しておきましょう。木曜の夜は貴方一人でした。ところが金曜の夜は友人が三人増えていました。人は平均一人100Wのヒーターです。またお酒を飲み、麻雀を楽しむという頭を使う状態にいました。どちらもヒーターとして熱エネルギーの流れを平均以上にする行いです。そのため室内への放出熱エネルギーが増えたのです。

水でも同じ現象が起きることが解るでしょう

 水の流れでも同じような現象が起こります。それを考えることで理解が増すでしょう。
 布で出来た袋を考えて見ましょう。水を入れていきます。袋の中の水面が徐々に上がっていきます。しかし布は水を通すので、徐々に袋から流れ出す水の量が増えていきます。そこで袋の中の水面の上昇は、段々緩やかになっていきます。そしてある高さになれば、注ぎ込む水の量と、布からしみ出る水の量が同じになって、結果的に水面が固定され、それ以上上昇しなくなります。
 この場合水面をあげるために、二通りの方法があります。①一つは注入する水の量を増やすこと、②今一つは布を二重にしたり、水を通しにくい布を使ったりして、流れ出す水の量を減少させます。
 これまでの多くの人が採用したやり方は①と同じでした。20世紀の古いやり方です。水面をあげるために、水の流入を多くしてきたのです。つまり部屋の温度が充分上がらないなら、暖房器具を増やせば良いと考えてきたのです。あまり賢いやり方とは言えません。
 もう一つのやり方は、②のやり方に相当します。部屋から逃げていく熱エネルギーの量を減らすことで、同じ暖房器具を使っても、部屋の温度が更に上昇する工夫をするのです。これはよりスマートな、大量エネルギー依存から脱する、21世紀主流の考えになっていくと思われます。
 実は人類は各時代時代で、また地域地域で、そのような工夫をしてきたのです。それを止めたのは20世紀になって、イケイケドンドンの野蛮なやり方が奨励されるようになってからです。

部屋の断熱性を上げる

 部屋の温度を上げるのに、第二の方法を使うこと、つまり部屋からの熱エネルギー流出が少なくなるよう工夫すること、これを部屋の断熱性を上げると言います。第一の方法、つまり暖房器具を増やすより賢い方法ですが、それだけよく考えなければならない方法です。方法は部屋によって原則的に違います。したがって部屋を使う貴方が、考えなければならないことで、断熱性の改善のために簡単に使える規則はないのです。

日本の昔の伝統的な家屋は断熱性が悪いので、炬燵を発明した

一般に広い空間の断熱性を上げるには、緻密な計算が必要です。また断熱性を上げるとは、主として冬場の寒さを避けるために発展してきた考えです。
 日本では夏が蒸し暑くて過ごしにくい。冬場は寒いけれども、世界的に見てそれでも温度的には凌ぎやすい。
 日本の伝統家屋は、夏場を凌ぎやすいことを主眼としています。そこでは断熱性の概念すら、伝統的な家屋にはあえて言えばありませんでした。それでも日本伝統に学ぶことはもちろんあります。その代表が炬燵です。

炬燵が教えること

 炬燵は断熱性が優れています。テーブルという狭い空間を、非常に断熱性が高い空間に仕上げています。その断熱性は厚い炬燵布団が与えています。
 炬燵から学べることはシンプルです。狭い空間では断熱性を高めやすいことです。また一般に厚い布は断熱性が高いことが解ります。

部屋の断熱性を上げるために

断熱性を上げることは、熱の流れを出来るだけせき止めることです。そのためには熱が逃げやすいところを見つけ、それを改良して行くことになります。多くの場合、断熱性が一番悪い場所は窓になります。そして窓の断熱性を上げるのにもっとも手早い方法は、カーテンを上手に利用することです。

未完