これから千年京都の足となる公共交通機関について試案

 京都は千年以上の歴史を誇ります。来るべき持続社会をリードする潜在力があるはずです。これから千年のことを考え、新しい京都の礎を築いて行こうではないですか。持続社会から大きく離れてしまった20世紀を反省して。
 持続可能社会は、自然エネルギーで支えられる社会のことです。プーチンが引き起こしたエネルギー危機が現在問題になっていますが、化石エネルギーや原発に頼る限り、エネルギー危機がこれからは頻繁に起こることは避けられません。これから千年続く古都の基盤を作っていこうではありませんか。そのための交通システムを今回は考えていきます。

道路は工場に続く大量エネルギー消費の場所になっている

 家庭での省エネは、忘れたころにはキャンペーンが張られ、やれ節電だ、やれ省エネだと、小学校でも教えられています。しかし家庭でのエネルギー消費以上に、工場・運輸・第三次産業で、エネルギー消費は大きいのです。それを知ることから未来社会の展望が始まります。分野別に分けたエネルギー消費を、IEAのデータから見てみましょう。簡単な表にまとめていますから、ぜひ一度ご覧ください。

上にリンクした分野別エネルギー消費で、消費が一番大きいのは工場で約1/3を、次に大きいのは運輸部門で消費の約1/4つまり25%を占めることがわかります。家庭はおよそ15%ですから、市民としてはもっと運輸を気にする必要があることがわかるでしょう。
 それでは運輸をどう変えていけば良いのか、これもIEAのデータをまず見てみます。運輸を分別して、道路上の運輸、鉄道上の運輸、それに空路(国内)、海路(国内)で分類してあります。国外が気になる方も多いでしょうが、IEAでは国際線の空路、海路のデータはworld(世界編)にまとめて発表されていますので、私も別項として、そのうち取り上げたいと思います。下記のデータはIEAのデータから簡単な表にまとめていますから、ぜひ一度ご覧ください。

このデータを始めてご覧になる方は、大変驚かれると思います。一大エネルギー消費分野である運輸でのエネルギー消費のうち約90%が道路上であるのに対し、鉄道上ではわずかに2%に過ぎないうえ、国内線の船にしろ飛行機にしろ、鉄道上で消費されるエネルギー以上のエネルギーを消費しているのです。これはひとえに鉄道の運動に対する抵抗の少なさによります。鉄道(電車)を見直して、電車で街の、地域の、日本の交通網を、しっかり整備していくことが、日本の持続可能社会移行の大きな柱となります。その意味で、中小の地方都市にLRTを導入することは、持続社会建設のためには大変重要なことになります。え、LRTって何かって? それは「千年文化を考える会」HPのLRTについてのページをどうぞ。

 道路上でのエネルギー消費を減ずるのが、真の持続社会への道であることがお判りでしょうか? EVなどが脚光を浴びますが、EVと言っても道路上を走ります。タイヤで道路上を走れば、どうしても運動に対する抵抗が大きくなり、エネルギー消費の大幅な減少は考えられません。エネルギー源が化石燃料から自然エネルギーへ変わるのです。歴史を見てもエネルギー源が変われば、社会が大きく変わってきました。これからもそうでしょう。エネルギー源が自然エネルギーに変わるときの、社会の変化を大きく先取りするために、「持続いうたら京都でしょ」の京都が、日本の先陣を切らなくてどうするのですか。

京都市の財政状態

 変化のためにはお金が必要です。残念ながら自治体として京都市は豊かではありません。京都市の年間予算は1兆円ほどですが赤字決算が続き、多い時には一年で100億円ほどの赤字が出るそうです。市長になって10年になる現市長は、財政的には策をほとんど打ち出せず、しかし最近になって財政再建の道を発表しました。それは50億円ほどの無駄を省き、50億円ほどの新たな収入の道を探すということでした。
 なるほど聞こえはいいが、中身がねって気になりません?
 まず無駄を省くことは福祉を切るというものです。大きなものは二つあります。
 一つ目は敬老乗車証の値上げです。敬老乗車証は市が運営する公共機関‐市バスと京都市地下鉄‐の、一年間乗り放題の乗車券を、高齢者に安く提供することで、年寄りが歴史と文化のこの町を、自由に散策できるようにしていたものです。実際かなり安価だったので、私も利用していました。
 もう一つの福祉切りは、小学生の歯科診療を有料にすることです。これも年間20億円ほどの効果があると、京都市は考えているそうです。しかしこの有料化で、歯医者にかかるのをやめる児童が出たら大変です。敬老乗車証を買うのをやめるのとは大違いです。事実歯科医師会長のコメントで、子供の歯科診療からの逃げは、一生の問題だと言っておられました。私も敬老乗車証は我慢するが、歯科診療有料化には反対です。大切な子供の未来がかかっています。
 一方の増収策ですが、南部を開発するというので、建築制限などの縛りを、大幅に縮小し、高さ制限を大きく緩めて、いわば中規模の高層ビルを建てることで人口流出を止めることでした。これは完全に20世紀型の発想で、時代遅れもいいところです。高層ビルは自然エネルギーにはなじまないのですから。


 市はこの策で行きたいようですが、はっきり言って十数年も市長をやって、赤字財政を続けてきて、それでもこの程度の策しか出せない門川現市長はちょっとどうかなって思わざるを得ません。
 

京都には年間5000万人以上の観光客

 コロナ禍の前には、京都には毎年5000万人以上の観光客が訪れていました。その二割が外国からのお客様でした。お店だとお客様が多くいらっしゃると当然繁盛します。京都にこれだけお客様が来られているのに、財政赤字とはどういうことでしょう。不思議な気がします。仮に5000万人のお客様すべてが、100円の利益を直接にせよ間接にせよ、市に与えてくれたとすれば、50億円の収入増です。観光客に京都の魅力をもっと楽しんでもらい、そして直接間接の収入を市が得ることができるようにする、これを考えたほうが、20億円程度の福祉切りより、よほどいいような気がしますが。
 市への直接収入となるのは、市の公共交通機関利用です。これがとても満足できる状態ではない。これを整備して観光客にももっと利用してもらえば、市の収入は上がるでしょう。

京都市バスの現状

 京都市交通局は、長い間赤字と言われていましたが、最近コロナ禍の前には黒字に転じていました。しかしコロナ禍でまたひどく落ち込みました。観光客が減ったうえ、多くの市民も密を避けるため、バスに乗るのをやめました。私もその一人です。しかしコロナ禍の前と後では、どれ位の利用者があるのでしょう。そしてどう変わったのでしょう。京都市交通局が公表している広報をもとに見てみましょう。

平成10年代から平成の終わりにかけては、京都の観光客が大きく増加したわけです。運賃収益を見ると、地下鉄はそれなりに増加していますが、バスはほとんど変わっていません。でも双方合わせてみて、観光客の人たちの多くが市の公共交通機関を利用しているとは言い難い状況であるように見えます。これには京都の市バスの改善すべき欠点があるのではないでしょうか。

四条河原町で常時みられる市バスの怪

 四条河原町は京都の一大繁華街です。私も自転車でよく訪れます。粋でおしゃれですが、庶民的でほっとする町ですよね。
 バスで訪れるとおかしな現象に気づきます。まずバス停を探すのに一苦労です。というのは数多くの行き先があって、自分が乗りたいバスにどのバス停で乗れるか、初めて使う場合は調べないといけないからです。バス停は同じ四条河原町という名前になっているのですがね。
 やっと見つけた正しいバス停で待ってみましょう。バスが次々にやってきます。でも自分が乗りたいバスは、なかなか来ません。バスは目の前を通過します。そして三か所ほど並んであるバス停のどれかに止まります。感覚として毎分来ている感じです。でも自分が乗りたいバスは10分ほど待たなければなりません。これじゃあ、京都一の繁華街に、観光客がバスで来て下さることを期待するほうがおかしいでしょう。東京では地下鉄およびJR私鉄の路線網がはっきりしており、例えば銀座に行くにも初めての人がさほど苦労しないで済むようになっていますが、京都市バスの路線は京都人でも苦労する複雑さを持っているのです。バスの路線は1番から207番までありますが、途中が飛び飛びで207路線があるわけではなく、何路線あるのかはほんの一握りの人しか知らないでしょう。
 複雑さを実感してもらうために、四条河原町を出ていくバスの時刻表を、朝の8時台、午後の3時台について、市の交通局のHPから作成してみました。例えば河原町北行きは、河原町通を北上するものですが、その路線は8時台も15時台も8路線あり、バス停の場所は路線で決まります。第二カラムはカッコの中が路線番号、その左にある数字が、その時間帯に来るバスの本数になります。路線3番の北行きのバスは、8時台には9本来るが、15時台には5本であると読み取ってください。そして第三カラムと合わせてみれば、河原町通りを北向きに通るバスは8時台には42本来るが、3番のバスに乗るように教えられた人は、7分程度置きに9本しかないバスを待つことになるということです。それが15時台では5本になりますから、12分おきにしか来ないことになります。え、説明がわかりにくいって? ごめんなさい。私自身ややこしいと思っていることです。ややこしいと思われるのは当然ですね。

河原町北行8時台9(3),4(4),6(5),4(15),3(17),4(32),3(59),9(205)8路線42本
河原町北行15時台5(3),4(4),5(5),2(15),4(17),3(32),4(59),7(205)8路線34本
河原町南行8時台4(4),4(5),5(17),3(80),10(205)5路線26本
河原町南行15時台4(4),3(5),4(17),2(80),7(205)5路線20本
四条東行8時台4(11),5(12),4(15),2(31),5(37),7(46),2(51),3(59),6(201),6(203),6(207)11路線52本
四条東行15時台3(10),3(11),5(12),2(15),1(31),4(37),5(46),1(51),5(201),6(203),6(207)11路線46本
四条西行8時台9(3),3(5),4(10)4(11),5(12),1(31),4(32),7(46),6(201),8(203),6(207)11路線57本
四条西行15時台5(3),3(5),3(10),3(11),4(12),1(31),3(32),4(46),4(201),6(203),6(207)11路線39本
()内は路線番号、その前の数字はバスの本数を表す。例えば河原町通りを北に向かう3番のバスは、朝8時台には9本来るが、15時台には五本に減る。

また北行きと南行き、東行きと西行きでは、それぞれ本数が違います。これはこの交差点で曲がるバスがかなりあるためです。図体が大きなバスが、信号待ちして道をふさぐ現象が起きます。四条河原町の交通渋滞の一つの理由になります。すべて直進すれば・・・。

トロント市交通局ーTTC

 カナダにトロントという町があります。カナダ最大の町で、また移民も多く、その人種の多様さはニューヨークを思わせるほどですが、落ち着いた町で、安全性はずっと高い町です。また多様な移民を反映して、多種多様な町の風景が広がり、ブロック毎に違った楽しみが見られます。
 そしてそれら違った市内の風景を繋いでいるのが、非常に良くできた公共交通システムであり、それを提供しているのがTTC(Toronto Transit Commission)です。TTCは北米でも有数の優れた交通システムを提供していると、大変評価も高いのです。
 ここではトロントの町をご紹介し、京都にその交通システムを応用することを考えて見ましょう。京都や大阪のように、トロントの町は道路が東西南北の網の目のように張り巡らされた町です。それを使って、TTCはとても解りやすい交通システムを提供しています。
 町のあらゆるスポットは二つの道路の交差点で表すことが出来ます。これはちょうど京都と同じです。例えば四条河原町は、南北に延びた河原町通りと、東西に延びる四条通りの交差点ですね。
 TTCでは基本的にすべての主だった道路に、何かの交通手段を提供しています。地下鉄、路面電車、バスのどれかです。路面電車もバスも走るという道はありません。基本的にどれか一つです。
 そしてそれらの車両の行き先は四通りしかありません。北行き、南行き、東行き、西行きのいずれかです。そして乗換えは自由に、かつ便利にできる仕組みが整っています。そうすることにより、町の二点を自由に移動できます。乗り換えで追加料金は発生しません。もともと一度は乗り換えるのが通常の話であると考えているからです。
 京都でいえば、四条河原町から百万遍(今出川東大路)に行きたいとします。方法は二通りあります。一つは河原町通りを北上し、今出川通で降りる。そして今出川通の東行きの乗り物に乗り、東大路通で降りる。今一つは四条通を東行きに乗り、東大路通(祇園)で降りる。そして東大路通の北行きに乗り、今出川通(百万遍)で降りる。

仮にこの方式を取り入れたとすれば

 京都の人は乗り換えを嫌がるそうです。しかし乗り換えを当たり前として考えると、いくつも利点が出てきます。それは後で述べるとして、仮に上記の簡単な方式を取り入れると考えてみましょう。あくまで試案です。
 京都市発行の、ネットからダウンロードできる京都市交通路線図をみると、市バスの路線が入った地図を見ることができます。それを見ても明らかに四条通りも河原町通りも、たくさんのバスが走っていることが、よくわかります。
 でも明らかに多くのバスが走っている道路の数はそう多くありません。南北に走る道路を東からみると、①東大路通②河原町通③堀川通④千本‐大宮通り⑤西大路通の五本が、北は北大路通りから南は七条通まで、基本的にまっすぐに伸びており、バスが頻繁に走っています。一方の東西の道は北から①北大路通り②今出川通③丸太町通④四条通⑤五条通⑥七条通が基本的にまっすぐ伸びており、現在バスも多く走っています。
 そこで東大路通り、北大路通り、西大路通り、七条通りで囲まれた長方形の内部を、京都中心部と考えてみましょう。その中を南北に東から河原町通、堀川通、千本‐大宮通の道が、東西に北から今出川通、丸太町通、四条、五条の道が碁盤の目を作っています。これらの道にすべてバスを2~5分おきに走らせるとしましょう。基本的にまっすぐに。そうすれば一度の乗り換えで、この中の道沿いの交差点同士はすべて到着可能となります。決められた時間内での乗り換えでは、新しく運賃は発生しないとすることが肝要です。これは現在ほとんどの人が持つようになった交通カードを使えば問題なくできるでしょう。
 これで一日のバスの総走行距離がどのようになるのか概算してみます。計算を簡単にするために、南北の道は8km、東西の道は5kmの長さとします。ちなみに京都市交通局は、京都駅から北大路駅の地下鉄の距離を7kmとし、今出川通を東大路通から西大路通までの距離を道に沿ってマピオンで測ると4.4kmでした。
 南北の道は5本、東西の道は6本でしたから、すべての道の一往復の総和は(8×5+5×6)×2=140kmです。4分に一台走らせれば、一時間にこの15倍、それを16時間走らせれば一日では15×16=240倍になり、一日の走行距離は3,3600km(約三万四千キロ)となります。京都市交通局では、現在一日の走行距離は八万キロと言っていますから、この幹線道路の走行距離での計算の二倍以上の距離を走っていることになります。中心部の外の場所から中心部への道にバスを走らせる必要がありますが、この総走行距離が中心部を上回ることはないでしょうから、現在の総走行距離を縮小することは、比較的容易にできるでしょう。現在のきめ細かい路線を上の幹線道路だけでカバーできませんから、この幹線道路に至るまでの道筋は様々に確保して、これらの枝線のバスを、現在走行間隔を下回らない間隔で提供するとすれば、多くの利用者が一度(場合によれば各自の選択により二度)の乗り換えで、今以上に待ちを少なく利用することができるでしょう。
 以上の変更でバスの総走行距離を抑え(すなわち必要経費を抑え)、バスの路線を分かりやすくする(すなわち乗り換えを工夫することで利用者を増やし増収につなげる)ことができるように思います。また多くの観光客にも満足してもらって、リピーターを増やせるのではないか、そう考えています。

30か所の乗り換え地点を地域活性化の拠点に

 問題は乗り換えが面倒だと思う市民が多いことでしょう。しかし子供の歯の健康を考えれば、小学生の歯科診療無料を確保することがもっと重要であり、一回の乗り換えがいやだと思う人も、乗り換えさえ我慢すれば子供の歯の健康が京都では保証されるのだとなれば、それならと我慢してくれる人も多く出るのではないかと思っています。観光客はもともと多くが一日乗車券を持って乗っているので、乗り換えの苦痛もそれほど感じないでしょう。
 一方で乗り換えを便利にする必要があります。乗り換え地点は5×6=30か所ですから、乗り換え補助要員を常駐させることは難しくないでしょう。彼らにお年寄りとか障害者の乗り換えを手伝ってもらうのです。さらには旅行者で乗り換えのバス停を探す人にも、手を貸してもらいます。
 またこの乗り換え地点で、ある程度時間をつぶすのも可能であるような乗り換え時間を設定すれば、ついでにちょっと寄り道してという人もかなり出てくるのじゃないでしょうか? これからは時間に追われた20世紀の常識は通用せず、途中を楽しむなど、ゆとりが重視される時代です。それを利用して、乗り換え個所を中心とした地域起こしを、地域で工夫する。京都の町全体の活性化につながります。そして最も重要なのは・・

縦横十一本の幹線(計70km)を順にLRT化する

 そうです。上で述べた幹線(11本ある)を一本ずつ順にLRT化していくことです。LRT化することで、脱炭素に大きく貢献できます。そして京都は次の千年の持続社会を先導する都としての役割を果たしていけるのです。
 LRTに移行するメリットは多々あります。第一は冒頭で述べたように、エネルギーを爆食いする自動車依存を脱し、自然エネルギーで支えられる持続社会への柱とすることです。第二は人にやさしい道路空間を取り戻すことです。例えば乗り降りも簡単で、年配者の方も車いすの方も、何不自由なく自力で乗り降りできるのです。真のバリアフリーはLRTだからできます。人にやさしい空間は、トランジットモールという、楽しめる空間を商店街に作り出します。第三は交通を主導し、渋滞を避ける方法を提供します。欧米でのLRTのある多くの町では、LRTが信号で止められることなく、LRTの進行に合わせて信号が変わるのです。つまり自動車はLRTを見ながら走行を考えます。LRTが交通整理の役割を果たします。
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この試案は、自然エネルギーに支えられる社会、すなわち21世紀が進むべき基本姿勢で、社会を考察する一般論が背景にあります。お時間があれば、それもご覧ください。

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